ふたりの夜はいつまでも

「さ、冷めないうちにどうぞ」
 僕はマグカップを手に、目の前の彼女に語りかけた。
 しかし彼女は身動きひとつしなかった。冷めてしまったのはその心。今夜0時に世界が終わることを知った時、彼女はひとり去ろうとした。だから僕はその胸に、ナイフを突き立てなければならなかった。
 僕は彼女と肩を寄せ合い、ひとつの毛布にくるまった。その体もすっかり冷たくなっていたけれども、いれたてのココアがそれを補ってくれた。時計の針を眺めつつ、息を潜めその瞬間を待つ。
 
 そして0時――。
 世界は終わらなかった。
 0時3分。
 世界は終わらなかった。
 0時5分、10分、30分。
 
 ……世界はいつになったら終わってくれるのだろう?

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 本作は『Twitter300字ss』企画参加作品です。