長編

ばらばら その4

2 母が帰ってきたのは、その日も遅くなってからだったと思います。 僕は母がまた、金田さんを家まで連れてくるんじゃないかと冷や冷やしていましたが、母は一人で帰宅しました。僕は昼間に金田さんと二人きりで会ったこと、強引に就職まで周旋されたことに…

ばらばら その3

第二章 1 それから二週間ほどたったある日のことです。 この日もいろいろな出来事があって、長い一日となりました……。 すっかり世間では、夏本番といった感じになっていました。街のあちらこちらで、はしゃぐ学生連中の波ができていて、どこもひどく混雑し…

ばらばら その2

2 母はずっと、保険の外交を仕事にしていました。 訪問型の保険外交を専門としているというだけでも、その当時ですら、かなり怪しいことをやっていたとは思うんですが、そんな母でも女手一つで僕を育ててくれて、二年も浪人させてくれて、小遣いも含めた生…

ばらばら その1

第一章 1 ……「夢」を見ていました。 「夢」の中の僕はまだ小さい子どもで、裏庭を元気に遊びまわっているんです。 季節は、やっぱり夏でした。 生垣にはあさがおのつるが、いくつも巻きついていました。すぐ側にはひまわりが、太陽に向かって大きな花を開か…