君の願い、僕の願い

「世界中の人々が幸せになりますように」
 
 真摯に祈りを捧げる君の横顔を、僕は隣で薄眼をあけて眺めている。今の君はたまらなく美しいけれども、その祈りは実は父親に向けたものであることを、僕は知っている。彼は本気で世界平和を求める大馬鹿者で、君は彼の夢の実現が、自らの幸せにもつながると信じている。だけど君がこれ以上悲しむ姿なんて見たくない。僕は君だけの、いや君と僕、二人だけの幸せを、願わずにはいられない。
 
「大丈夫。願いはきっと叶うよ」
 
 僕は君を励ますふりして、自分への言葉を口にした。それからポケットに潜めたナイフの刃に触れ、焚きあがる邪な想いの熱を冷やしながら、秘めたる計画の遂行を心に決めたのだった。
 
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 本作は『Twitter300字ss』企画参加作品です。