花火

ひゅるひゅる……

どん!


花火だ
花火だ

花火がひらいた

でっかく
まあるい

花火がひらいた

真っ赤で
あざやか

花火がひらいた

きれいだ
きれいだ

きれいな花火だ

今年も
いっぱい

花火がひらいて

僕らを
なんども

楽しませてくれた


ここは田舎の
小学校

ここの屋上は
特等席

花火を見るには
いっとうの場所


なのに

頑固でイジワル
先生たちや

ガミガミうるさい
親たちが

ここへの出入りを
禁止した


「ここはたいへんあぶないところ」

「ここでこどもがいっぱいしんだ」

「ここであそぶこいけないこ」

「きけんきけんとってもきけん」


扉をがちゃんと
閉めちゃった

おまけに階段
とおせんぼ

おかげでここは
いつもひっそり

満月なのに
今夜もひっそり


でもね

言うこと聞く子
ばかりじゃないよ

だってほらほら
耳をすませば

通路をふさいだ
机をすりぬけ

いくつもかかった
カギをこじあけ

小さなぼうやが
やってきた


ざわざわ
ざわざわ

えらいぞこの子は
勇気ある子だ

誰でも花火は
見たいもんだよ

でもでもこの子は
下向いてるぞ

花火が開けば
元気になるよ

さあさ一歩ずつ
足うごかして

もっともっと
歩いてゆこう

も少し前に
ずずっと前に

どんどん前に進もうよ

はしのはしまで
つきあたりまで

どんどん先へ進もうよ


どきどき
どきどき

おっとフェンスが
邪魔してる

なんでこんなの
つけたんだろう

いっそそいつを
乗りこえようか

ゆっくり上れば
大丈夫だから


わくわく
どきどき

どきどき
わくわく


そしてとうとう君は縁までやって来た

下は目も眩むような高さだね

だけどもはや行く手を阻むものは何もない

テストの点が悪いと叱る母親も

君を理解しようとしない担任も

毎日虐めるクラスメイトも

誰もだあれもここにはいない

君は一人ぼっちになったんだ


だからね

僕らは花火が見たいんだ

でっかくまあるい見事な花火が

ぱっと開くのが見たいのさ


だからさ

ぐずぐずするなよ

震えていないで泣いていないで

さっさと花火を見せておくれよ


早く

はやくう


と・べ・よ

翔べったら!


……

ばっ

ひゅるひゅる……

どん!

ぶしゃ!

……


ああ……

やっとひらいた
花火がひらいた

真っ赤な血しぶき
花火がひらいた

まあるい血だまり
花火がひらいた

地面いっぱい
花火がひらいた

きれいであざやか
素敵な花火だ

すごくておっきな
立派な花火だ


でも……

見たいな見たいな
まだまだ見たいな

あっと言う間に
終わっちゃったし

足りない足りない
ちっとも足りない

こんなちょっとじゃ
満足できない

もっともっと
見せておくれよ

僕らに花火を
見せておくれよ

もっと……

たくさん……


おーい

そこの君

君もよかったら

屋上へ花火を見にこないかい

楽しいよ面白いよ

だからさ……


……ね?

 

(おしまい!)

 

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 本作は「のべらっくす」さま主催、『【夏休み特別企画】納涼フェスティバル 』参加作品です。

 

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