創作

おーばーらいと

「君のお姉さんを裏切るなんてできないよ」と、義理の兄は言った。 初めての告白はあえなく玉砕した。その場に二人でいることに耐えられなくなって、私は家を飛び出した。「よっ、どうしたの暗い顔してさ」とぼとぼ歩いていると、クラス一のチャラ男に出くわ…

ふたりの夜はいつまでも

「さ、冷めないうちにどうぞ」 僕はマグカップを手に、目の前の彼女に語りかけた。 しかし彼女は身動きひとつしなかった。冷めてしまったのはその心。今夜0時に世界が終わることを知った時、彼女はひとり去ろうとした。だから僕はその胸に、ナイフを突き立…

あなたへ捧げる豚の餌

「これぞ男の料理だ」と父は言ったものだ。さんまの缶詰をフライパンにあけ、溶き卵と共にざっくり炒める。缶詰のタレで味付けは十分だし、後はご飯と混ぜて喰らうだけ。まさしく「喰らう」という表現がぴったりで、母からは「豚の餌みたい」と大不評であっ…

ばらばら その4

2 母が帰ってきたのは、その日も遅くなってからだったと思います。 僕は母がまた、金田さんを家まで連れてくるんじゃないかと冷や冷やしていましたが、母は一人で帰宅しました。僕は昼間に金田さんと二人きりで会ったこと、強引に就職まで周旋されたことに…

花火

ひゅるひゅる…… どん! 花火だ花火だ 花火がひらいた でっかくまあるい 花火がひらいた 真っ赤であざやか 花火がひらいた きれいだきれいだ きれいな花火だ 今年もいっぱい 花火がひらいて 僕らをなんども 楽しませてくれた ここは田舎の小学校 ここの屋上は…

ぼろぼろぼろ

大粒の汗が、子ども用スマホの画面にしたたり落ちた。 茜はハンドタオルを取り出して額をぬぐい、そのまま画面の汗も拭きとろうとした。しかしタオルはもうすっかり湿っていたため、うまく拭きとることができなかった。やむを得ず、表示がはっきり見えるまで…

ばらばら その3

第二章 1 それから二週間ほどたったある日のことです。 この日もいろいろな出来事があって、長い一日となりました……。 すっかり世間では、夏本番といった感じになっていました。街のあちらこちらで、はしゃぐ学生連中の波ができていて、どこもひどく混雑し…

ばらばら その2

2 母はずっと、保険の外交を仕事にしていました。 訪問型の保険外交を専門としているというだけでも、その当時ですら、かなり怪しいことをやっていたとは思うんですが、そんな母でも女手一つで僕を育ててくれて、二年も浪人させてくれて、小遣いも含めた生…

君の願い、僕の願い

「世界中の人々が幸せになりますように」 真摯に祈りを捧げる君の横顔を、僕は隣で薄眼をあけて眺めている。今の君はたまらなく美しいけれども、その祈りは実は父親に向けたものであることを、僕は知っている。彼は本気で世界平和を求める大馬鹿者で、君は彼…

雨は激しく

ノックの音がした。 安雄はしばらくの間逡巡していたが、絶え間なく音が続くので、あきらめて玄関のドアを開いた。「やあ、ひさしぶり」 目の前には、ひょろりとした背の高い男が立っている。「ええと……」見たような顔だった。話したこともあるような気がし…

ばらばら その1

第一章 1 ……「夢」を見ていました。 「夢」の中の僕はまだ小さい子どもで、裏庭を元気に遊びまわっているんです。 季節は、やっぱり夏でした。 生垣にはあさがおのつるが、いくつも巻きついていました。すぐ側にはひまわりが、太陽に向かって大きな花を開か…